地殻ダイナミクス

平成26年〜30年度
文部科学省 科学研究費補助金 新学術研究

Crustal Dynamics Unified understanding of intra-island deformation after the great Tohoku-oki earthquake.

 平成29~30年度公募研究

・東北地方太平洋沖地震後の内陸地震活動の推移に関する研究(代表:内田 直希)

 東北地方太平洋沖地震後の複雑な地震活動変化の要因は、本震・余効変動による 応力変化の他に、流体の移動や地震前の応力場、構造の影響など複数が考えられる。本研究では、粘弾性モデルを基に地震時と地震後および将来の応力変化を推 定し、それを内陸の実際の地震活動と比較することで、場所ごとの地震活動変化 の原因を突き止める。またそれをもとに将来の地震活動のトレンドを予測する。

 

・海山アスペリティ/海山クリープ仮説の地質学的検証(代表:山口 飛鳥)

 沈み込んだ海山とプレート境界型地震との関連については、プレート境界において地震時のアスペリティとして機能するとする「海山アスペリティ仮説」、上盤プレートが破壊されることによりクリープするという「海山クリープ仮説」の対立する2つの仮説が提案されている。本研究では、野外地質調査に基づく海山の変形場の解明、古応力計による応力の復元、砂箱実験による応力分布の再現を行い、海山沈み込みに伴う応力変化がプレート境界断層のアスペリティ/クリープのどちらの機能を果たすか地質学的に検討する。

 

・浅層反射法地震探査を用いた2014年神城断層地震時のネットでの変位量分布(代表:松田 信尚) 

 変動地形は過去数万年の島弧地殻の変形量や変形速度を見積もる有効なツールであるが、地殻の短縮変形量と変動地形から求まる上下変位(横ずれ変位)量とを単純に比較することは、その幾何学的形状が異なるためできない。そこで、本研究では実際に地表地震断層が出現し、様々な実測値が公表されている2014 年の神城断層地震を対象として、極浅部地下構造探査を実施することで、地表地震断層の正味での変位量分布を明らかにし、地震時の地下の断層での滑り量分布や、広域にわたる変位分布との関係を解明することを目的とする。

 

・巨大地震の後に山体下のマグマ溜まりが上昇も下降もすることを説明する実験(代表:並木 敦子)

 巨大地震に伴う現象の1つに地震による誘発噴火がある。東北地方太平洋沖地震のマグニチュードはMw9.0であり、これまでの経験からすれば、誘発噴火が起きてもおかしくない。しかし、地震に誘発されたと考えられる大規模な噴火は2017年3月現在まで発生していない。一方、地震直後には火山地帯での地表の沈降という噴火と正反対の現象が観察された(Takada and Fukushima, 2013)。本研究ではゲル状物質を用いた応力不均質場におけるクラック伝播の実験を行い、巨大地震がマグマを上昇させ噴火を誘発する場合とマグマを下降させる場合の両方が起き得る事を統一的に説明する事を目指す。

 

・圧力溶解変形の予測に向けた粒間水の性質の解明(代表:西山 直毅)  

 圧力溶解は,地殻の岩石や断層ガウジを圧密するメカニズムであり、ガウジ粒子の真実接触面積を増やすことから、断層強度の回復過程(摩擦ヒーリング効果)との関連が指摘されてきた。本研究では、圧力溶解の速度を予測するために、上部地殻の様々な深度に相当する温度・圧力条件における(1)粒界水の厚さと、(2)粒界水中の元素の拡散係数を定量的に評価する。得られた値を元に、圧力溶解変形のモデル計算を行い、摩擦ヒーリング効果に対する圧力溶解変形の影響を検討する。

 

・岩石―流体反応の力学応答と流路発展から探る沈み込み帯の透水性と流路連結度(代表:宇野 正起) 

 岩石―水反応は大きな体積変化を伴うため、応力変化・亀裂生成をもたらし、動的に流体流路を改変する。本研究では、固相―水反応の応力・透水係数・亀裂生成を直接測定し、反応誘起応力による亀裂生成と連結、透水係数の時間発展を明 らかにする。天然に観察される地殻やマントルの吸水反応との比較から、岩石―水反応に伴う反応-力学-水理学モデルを構築し、沈み込み帯条件下の反応に適用することで地殻・マントルの流路連結度・透水性を制約する。

 

・中速度領域における摩擦への温度効果と地震発生直前のプロセス解明(代表:澤井みち代)

 震源核が形成され断層破壊が伝播した際、それが大地震に繋がるか否かの鍵を握る1つの要因として地震発生直前の中速度領域での摩擦特性が挙げられる。そこで本研究では低温~高温条件下での中速摩擦実験をおこない、岩石の中速域摩擦特性に対する温度の効果を定量的に評価し、岩石強度や摩擦発熱が背景環境温度の変化に伴いどのように変化するのかを検証する。

 

・断層進化過程の解明に向けた階層型デジタル岩石物理化学モデルの開発(代表:辻 健)  

 岩石や断層の水理・弾性特性については、これまで個別のスケールで議論されることが多かった。しかし岩石や断層の発達過程は、分子スケールの化学反応、間隙スケールの流体挙動、フィールドスケールの間隙水圧分布といった要因が複雑に関係し合っている。本研究では、分子スケール・間隙スケール・フィールドスケールの水理特性と弾性特性をモデル化し、それらを練成させた階層型シミュレーションを実施する。それにより分子スケールの特性が、フィールドスケールでの水理・弾性特性に与える影響を調べる。さらに鉱物化を組み込むことで、水理特性と弾性特性(各階層)の間にある複雑な関係を明らかにし、それらが断層の進化過程(時間発達過程)に与える影響を調べる。最後にシミュレーションで得られた断層の強度回復過程を実際の地震(余震の時間変化)と比較し、断層の強度回復プロセスのモデル化を目指す。

 

・真実接触面における雲母・粘土鉱物の摩擦の物理(代表:佐久間 博)

 雲母・粘土鉱物は多くの断層に存在し、摩擦試験が実施されているが、その背景にある摩擦の物理の理解が進んでいない。本研究では雲母・粘土鉱物の摩擦を支配する要因を明らかにするために、雲母・粘土鉱物の(001)面に着目する。具体的には(1)第一原理計算による真実接触面における摩擦力の導出、(2)摩擦すべり実験による雲母・粘土鉱物層間の摩擦力の導出から、摩擦の物理を理解することを目標とする。

 

・沈み込み帯マントルウェッジ捕獲岩中の塩水包有物に溶存するイオンの定量分析 (代表:川本 竜彦)

 マントル捕獲岩中の水に富む流体包有物の化学分析により、水流体の起源や沈み 込み帯での水流体の化学的進化を議論することを目指す。

 

・海溝型巨大地震の最大規模推定に資する地質構造の強度推定(代表:宮川 歩夢)

 本研究課題では地震データに最新の応力逆解法を適用して、地質体内の摩擦強度を明らかにする。得られた摩擦強度とクーロンウェッジモデルからプレート境界断層のせん断強度を推定する。同様の解析を地震データの得られる世界各地の沈み込み帯で実施することで、各沈み込み帯の摩擦強度・プレート境界断層強度を定量化し、海溝型巨大地震の理解に貢献する。

 

 

 

 平成27~28年度公募研究

・段丘面の長波長変形に着目した第四紀後期のひずみ速度の解明(代表:廣内 大助)

 島弧の短縮変形には急激+緩慢な永久変形が存在するが、これまでは活断層剪断帯の急激な永久変形が評価される一方、撓曲や褶曲など長波長の緩慢な永久変形の評価は不十分であり、それが弾性変形を加えた測地結果との量的比較を妨げてきた。本研究では変形帯を横切る段丘地形の連続性や高度分布に着目し、緩慢な永久変形速度を加えた長波長に見られる第四紀後期の変形を明らかにする。

 

・引張割れ目方位解析による地殻応力・流体圧比決定手法の開発(代表:佐藤 活志)

 地殻流体の圧力は地殻の強度を低下させるので、テクトニクスを誘起する要因のひとつである。地質時代の地殻流体活動は、鉱物脈や岩脈等の引張割れ目として記録される。本研究は、引張割れ目の方位分布から、主応力方位と応力比だけでなく駆動流体圧比(差応力と流体圧の比)を決定する手法を開発する。この手法を四万十付加体にみられる鉱物脈群に適用し、過去のプレート沈み込み境界における応力状態と流体圧比を推定する。

 

・断層破砕帯の鉱物化シミュレーションと断層強度モニタリング手法の開発(代表:辻 健)

  間隙流体シミュレーションと鉱物化モデリングを断層破砕帯に適用し、破砕帯の鉱物沈殿や、それに伴う断層強化を再現する。実際の破砕帯内部の鉱物分布と、計算で得られた鉱物分布を比較することで、鉱物沈殿メカニズムに迫る。また断層の強度回復が、地震波属性(弾性波速度・異方性・減衰)に与える影響を計算する。

 

・岩石ー水反応による地殻応力発生機構とその時間発展の解明(代表:宇野 正起)

  岩石-水反応は大きな体積変化を伴うため、応力変化・亀裂生成・物質輸送をもたらし、地殻物質の物性に大きな影響を与える。本研究では、高圧反応その場観察・応力測定装置により、反応誘起応力を初めて直接測定し、応力発生機構とそれに対するシステムの応答-塑性変形・脆性破壊・物質移動-を明らかにする。これらの実験と天然岩石の比較から、岩石-水反応に伴う反応誘起応力の発生とその緩和モデルを構築し、地殻ダイナミ クスの理解に貢献する。

 

・雲母・粘土鉱物の最大摩擦係数の物理(代表:佐久間 博)

 断層によく見られる層状の雲母・粘土鉱物は、クリープ断層や地滑りの挙動を支配する重要な物質である。本研究では(1) 乾燥条件下で粘土鉱物の最大摩擦強度が低い原因、(2)含水条件下で、摩擦強度が低下する原因、(3)圧力溶解に関連する結晶表面の吸着水の物性、を明らかにすべく、摩擦実験と分子シミュレーションを実施する。

 

・深部低周波地震は地殻への水の供給と関係しているのか?(代表:高橋 浩晃)

 地殻内の水は内陸地震発生に関係していると考えられているが、その供給経路や時間変化についてはよく分かっていない。第4紀火山や内陸地震震源域の地殻マントル境界では深部低周波地震とよばれる低周波成分が卓越する特異な地震が発生しているが知られている。この地震の活動特性を列島規模で明らかにすることで、水やマグマ等地殻内流体との関連性について検討する。

 

・散乱波の波形の時間変化を用いた地殻流体の挙動の解明(代表:小菅 正裕)

  本研究では、東北地方太平洋沖地震によって誘発された秋田県森吉山付近の地震の後続波(散乱波)の波形の時間変化を詳細に調べ、時間的なゆらぎをもたらす要因とそれが生じた場所を特定して、流体の分布と挙動を把握することを目的としている。

 

・多元素同位体指標を用いた西南日本前弧の海底泥火山流体の起源の解明(代表:西尾 嘉朗)

  海底下深部における水の挙動に関する知見は、海溝域で起こる巨大地震の発生メカニズムの解明においても重要である。天然のパイプラインである「泥火山」の間隙水には、地下深部の流体の情報が含まれる。そこで、深部流体情報を高感度で得ることができるリチウム(Li)の同位体比を含めた地球化学ツールを用いて、西南日本の前弧域の深部流体の挙動の理解を深める。

 

・人工電磁探査を用いた沈み込み後の地殻流体の実態解明(代表:笠谷 貴史)

 

・東北地方太平洋沖地震の地震前・地震時・地震後の固着状態とすべり分布の推定(代表:吉岡 祥一)

 本研究では、豊後水道スロースリップイベントの解析に用いたプログラムに改良 を加え、東北地方のGPSの時系列データを用いて、東北地方太平洋沖地震の地震 前・地震時・地震後の固着状態とすべりの時空間分布をインヴァージョン解析に よって推定し、これら相互間の関連性を明らかにすることで、同地震の歪の蓄積・ 解放過程の全容を明らかにすることを目指す。

 

・断層面の不均一性と地震発生過程に関する実験的研究(代表:山口 哲生)

 断層面の不均一性が地震発生過程に与える影響を調べるため、アナログ実験を行う。ゲル表面の凹凸を精密成形することによって、意図的に応力や強度の不均一性を導入し、すべり過程をその場可視化することで、断層面の不均一性と地震発生・地震波放出の各素過程との関係を理解する。また、流体輸送の効果についても、可視化を軸にした検討を行う。

 

・余効すべり過程の理論解析と数値モデリングに基づく摩擦特性の推定(代表:有吉 慶介)

 本研究では、余効すべりの伝播速度について、岩石実験などから提唱された速 度・状態依存摩擦構成則の摩擦パラメター値と有効法線応力などから構成される 関数として表現できるよう、理論的な解析を行う。その結果を基に、実際の観測 データへ適用することで、摩擦特性や間隙圧などの推定も独自に試みる予定である。