大阪府北部から京都府中部にかけての丹波山地、さらに琵琶湖西岸に至る地域は定常的に微小地震活動が活発である。地震発生レートは中期的には極めて安定しているが 、過去に活動度が大きく変化した例が知られており、応力場に敏感に反応する側面もあると考えられている。また近年においても、2003 年以降地震活動の低下が指摘されている。特定の活断層に沿わず面的広がりを持つ定常的な地震活動は日本列島においてもあまり類例のない特異なものと考えられれるが 、地震活動の原因は自体はほとんど分かっていない。これまでの多くの研究により示唆されている丹波山地下の地下流体の存在が 、定常活動の成因とその活動変化に大きく影響しているものと考えられるが、その解明のためには詳細な地下構造に関する情報が必要である。本研究では、従来の観測密度をはるかに凌駕する多項目の観測を実施することにより、高解像度で地下構造の把握し、この地域の地震活動の原因およびその時間変化の要因をさぐることを目的としている。本研究は、当初の計画概要にほぼ準拠した形で進行している。

 Hi-net 等基盤観測網の整備により、平均約20km 間隔で地震観測点が全国をカバーするようになったが 、内陸地震の原因究明のため十分な解像度を得るためには、さらに稠密な臨時地震観測を行う必要がある。2008 年末より文科省のひずみ集中帯重点観測の一環として、琵琶湖西岸から丹波山地にかけて45点の臨時観測点を設けて観測を行っていたが、今年度本研究によりさらに37点の臨時観測点を増設し観測を継続している( 図 1  )。観測地域中央部における観測点間隔はほぼ2〜3kmとなっており、基盤観測網より一桁高い観測点密度を実現したと言える。観測機材としては「次世代型の地震・火山観測システム」( 通称満点システム)を用いてオフラインで行っており、回収された地震波形連続データは既存の定常観測点データと統合してデータベース化されている。今年度前半には基本的なハード/ソフトの整備およびいくつかの初期的な不具合の調整等を経て、波形データベースの運用は順調に進むようになった。現時点でほぼ2年間にわたる膨大な連続データの取得に成功している。

 昨年度までの地震データに基づき解析を進めている。地震の発震機構は、地殻応力を知るための貴重な情報であるが、定常観測網ではマグニチュード(M)2程度より大きなものでなければメカニズム決定は困難であり、ルーチン的な解析も行われていない。本研究の稠密観測網を用いると、丹波山地においてM0.5クラスのものでもP波初動極性による発震機構推定が可能であることがわかった(図2)。これはこの地域における気象庁一元化震源データにおける検知能力の下限にほぼ一致するもので、それ以上の大多数の地震について発震機構を求めることができると期待される。図3は、本研究で決定された発震機構解の一部を示すものであるが、約1.5ヶ月という短い期間にも関わらず、300個の発震機構解を得ることができた。また、これらは丹波山地では東西圧縮の横ずれ断層と逆断層が混在することや、琵琶湖西岸域では逆断層が卓越することなど、10年以上のデータを基にした既往の研究と調和的な結果を得ている。今後、空間的にも時間的にも高分解能の発震機構・応力場解析が可能となるであろう。

 また、地震波形データに基づく反射波ならびにレシーバファンクション法による地下構造解析が行われた。反射波解析では、従来から知られていたS波反射面が北摂地域の下に存在することが確認されたが、丹波山地全域では観測されず地域的に限定されたものであることが示唆された。また、遠地地震を用いたレシーバファンクション解析では、モホ面深度の詳細なマッピングを行い、琵琶湖南部地域においてモホ面が浅くなっていることがわかった(図4)。また、丹波山地の下へフィリピン海プレートが東方から急角度で沈み込んでいる様子を捉えた(図5)。これらの結果は、従来は定常観測点の密度が稀薄なためはっきりしたイメージを得られなかったものを、本研究の高密度観測によって鮮明な「像」を結ばせることに成功したものと言えるものである。

近畿地方北部における地震観測点と地震分布

水色の円が定常観測点、黄色の円は「ひずみ集中帯」重点観測および本研究による臨時観測点。赤い小円は2010年に発生した浅い地震の震央。

満点計画について