逢坂山観測所
osakayama Observatory
逢坂山観測所
osakayama Observatory
伸縮計の概念図(上)と伸縮計の変位センサー部分(下)。 白いパイプは基準尺として使用している溶融石英管。
当観測所の坑道は全延長670mと長大であり,しかも坑道の 中間地点は地表から約90mの深さにあるため,外気温の変化は 周囲の岩盤によって遮られ,坑道内の気温変化は年間を通して100分の1~2度程度しか有りません。こ の温度変化は,外気温の変化によってもたらされるものではなく,気圧変化が原因で生じることが分かっ ています。空気を圧縮すると温度が上がり,逆に減圧すると温度が下がることは御承知と思いますが,観 測坑道は丁度巨大なピストンのようなもので,気圧の増減に伴って坑道内の気温が変化します。このメカ ニズムは詳しく分かっていますので,坑 道内の気温変化は気圧計の記録から 1000分の1度未満の精度で求めること ができます。前述の伸縮計は二つの基準 点間の距離の変化を測るために,基準点 間に熱膨張係数が小さい材質の棒(基準 尺)を差し渡して,その一端を第1の基 準点に固定し,もう一方の端と第2の基 準点の間の距離を測定する仕組みになっ ています。基準尺の長さは温度が1度変 化すると1000万分の1程度変化します。 従って,通常の外気温の下では基準尺の長さ変化のほうが岩盤の伸び縮みよりもはるかに大きくなってし まい,高精度の測定ができません。しかし,気温変化が100分の1度程度しかない観測坑道の中では,基 準尺の長さ変化が10億分の1程度に抑えられますし,更に気圧計記録から求められる坑道内気温に基づい て基準尺の熱膨張による誤差を補正することによって,100億分の1未満の精度で測定ができることにな り,伸縮計が持つ限界性能に近い計測が可能になります。このような高分解能の記録は,地震予知研究だ けではなく,地球自由振動(大地震などが原因で,地球全体が特定の周期で振動する現象)等の微小な変動 を示す現象の解明にも使用されます。
当観測所は,気温変化の少ない環境を利用して, 温度変化に敏感な測定器の開発実験や検定のために利用されることもあります。地殻変動観測とは直接関係ありま せんが,大変珍しい実験材料が観測坑道内に置かれてい ます。それは,故熊谷直一名誉教授が1960年頃に始めら れた「花崗岩流動室内実験」に使用された花崗岩です。こ れは,花崗岩の石柱の両端を支持して水平に設置し,そ の石柱が重力によってどのように変形するかを観察する 実験です。実験開始当初から30年ほどの間は本部地区に 置かれていましたが,設置されていた建物が改修される ことになったため,当観測所に移設されたものです。地 殻変動観測も気の長い研究ですが,それをも凌ぐ大変な 実験だと思います。
地下水位観測用の井戸。水位は坑道床面から 1~2m上の位置にある。
2008年四川地震に際して得られた歪地震波形と水位変化。水位変化は地震波 によって周辺の岩盤が変形したために生じたと考えられる。
花崗岩流動室内実験のための花崗岩石柱。自重だけでの 変形を観るためのもの(上)と,中央部に荷重を掛けているもの(下)がある。