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東北地方太平洋沖地震にともなう静的応力変化
目次
- 東北地方太平洋沖地震による中小地震活動への影響
- 東北地方太平洋沖地震による主要プレート境界と活断層への応力変化
- 内陸地震・プレート境界地震活動への影響
- 内陸地震活動への影響(第二報)
- 内陸地震活動への影響(第一報)
東北地方太平洋沖地震による中小地震活動への影響(3/19)
当巨大地震後の地震活動を予測する上では,主要断層のみならず中小規模の断層への影響を検討する必要があります.そのため,ここでは過去に発生した地震のメカニズム解に対してクーロン応力変化(dCFF)を解きました.媒質は半無限弾性体(Okada, 1992),ポアソン比は0.25,剛性率は3.2x105 bar (32GPa)に設定しました.震源断層は筑波大学八木先生によるものです.過去の地震のメカニズム解は,防災科学技術研究所のF-netデータ(2000年10月〜2009年8月)を使用させていただきました.1つの地震に関して想定される断層面(節面)は2面存在するため,それぞれについて計算しています.したがって,両図の比較が必要です.1つの地震震央において,両節面で応力が増加する場合は今後の地震活動の活発化,両節面で減少する地域は静穏化が予想されます.少なくとも片方の節面で応力増加がみられる地域についても,地震発生が促進される可能性があります.
以上はあくまで学術的に議論されているクーロン応力仮説に基づく計算結果と解釈です.また,震源断層モデルやモデル設定パラメータによって結果が変わります.このページに掲載された情報を利用することによって生じた損害・障害・不利益等に対する責任は一切負いませんので,ご注意ください.
東北地方太平洋沖地震による主要プレート境界と活断層への応力変化(3/18)
東北地方太平洋沖地震にともなう静的応力変化についての第四報となります(地震予知研究センター 遠田).
本震Mw9.0と最大余震Mw7.9によって主要な他のプレート境界面と活断層にかかる静的クーロン応力変化(dCFF)を半無限弾性体(Okada, 1992)において計算しました.ポアソン比は0.25,剛性率は3.2x10^5bar(32GPa)としました.影響を受ける断層面の走向・傾斜・レイクについては,相模トラフはMatsu'ura & Iwasaki (1983)等,東海・東南海震源域はIshibashi (1981),南海地震震源域はAndo(1975),活断層は活断層研究会(1991)と地震調査研究推進本部HPを参考にしました.上段は仮定した摩擦係数が0.4,下段は0.8の場合を示します.仮定した摩擦係数が大きいほど,断層を押さえつける圧力(法線応力)が減少する場合に効果的に働きます.
【他のプレート境界への影響】相模トラフは0.0-0.5 bar程度減少,および東海~南海地震震源はきわめてわずかな増加傾向(最大0.2bar)となります.房総半島東方沖では数bar以上の顕著な増加が見込まれます(ただし,この地域の地震プレート構造と固着特性はまだよくわかっていません).
【主要活断層への影響】南東北の逆断層は概ねdCFFが減少,北東北はわずかに増加します.中部地方の北西-南東走向の左横ずれ断層にはdCFFが増加,北東ー南西走向の右横ずれ断層には減少となります.近畿の活断層への影響はごくわずか(0.1bar以下)です.
以上はあくまでクーロン応力仮説に基づくものです.また,震源断層モデルや影響を受ける断層の設定如何によって変化します.このページに掲載された情報を利用することによって生じた損害・障害・不利益等に対する責任は一切負いませんので,ご注意ください.
図.東北地方太平洋沖地震による主要プレート境界と活断層への応力変化.クリックすると拡大します.
東北地方太平洋沖地震にともなう静的応力変化(第三報, 3/15):内陸地震・プレート境界地震活動への影響
今後の内陸地震活動を予測するために,影響を受ける断層の走向,傾斜,すべり角(すべりの向き)の地域性を考慮して応力変化の計算を行い,各地点でのクーロン応力変化の最大値をマッピングしました.また,新たに東海地震,関東地震の想定断層面への影響も検討しました.(地震予知研究センター 遠田)
図1:深さ12.5 kmにおける6地域でのクーロン応力変化.A:北海道・東北・信越地域の逆断層,B:中部地域の横ずれ断層,C:西関東〜房総の斜めずれ断層,D:東海地域の逆断層,E:伊豆半島〜伊豆諸島の横ずれ断層,F:太平洋プレート内の正断層.それぞれの地域で不確定性を考慮して複数パターンを計算し,最大値を表示.緑線は活断層分布(活断層研究会,1991),灰色線は地域区分境界を示す.
図2:東海地震,関東地震の想定断層面に解いたクーロン応力変化.断層面の走向・傾斜・レイクについて,関東地震はMatsu'ura & Iwasaki (1983),東海震源域はIshibashi (1981)を参考にした.相模トラフ沿いには0.1bar程度応力減少.駿河トラフ沿いでは逆に最大0.1bar増加となる.なお,今回の震源断層南延長部の房総沖のプレート境界についても参考のため計算した.ただし,この地域のプレート構造と固着特性(地震発生特性)はまだよくわかっていない.
以上の計算結果は暫定的です.今後さらに詳細な解析により応力分布や値が変わる可能性があります.ご注意ください.
東北地方太平洋沖地震にともなう静的応力変化:内陸地震活動への影響(第二報, 3/13)
八木先生の震源モデルの更新(ver.2)にともない,応力変化の計算結果を更新しました.また,影響を受ける断層の走向,傾斜に関してばらつきを考慮した計算を行い,応力変化の最大値をマッピングしました.(地震予知研究センター 遠田)
図1:北海道〜関東地域に分布する逆断層については,南東北(宮城県,山形県,福島県)で応力減少,北東北(岩手県北部,青森県,秋田県)と栃木県周辺で1bar(0.1MPa)以上増加していることが予想されます.
図2:中部地方〜近畿地方に分布する横ずれ断層には,計算上0.1〜0.7バール程度応力が加わります.大気圧以下ですが,既存の研究結果を参考にすると,地震活動を活発化させるのに充分な変化量といえます.
なお,以上の計算結果は暫定的です.今後,震源断層モデルの更新や大規模な余震の影響も加え,さらに詳細な解析を実施する予定です.これにより,応力分布や値が変わる可能性があります.ご注意ください.
東北地方太平洋沖地震にともなう静的応力変化:内陸地震活動への影響(第一報, 3/13)
ここでは,筑波大学八木先生の暫定震源断層モデル(2011,図1)を用いて,同地震によって周辺の地殻内に分布する断層への応力変化(クーロン応力,ΔCFF)を計算した.計算深度は平均的な内陸地殻内大地震の発生深度である12.5 kmに設定した.日本列島には多様な断層が存在し複雑な分布を示すため,地域ごとの断層特性を考慮した計算結果を図2〜5に示した.理論的には,ΔCFFが正の地域(暖色系)では断層活動が促進され,ΔCFFが負の地域(寒色系)では断層活動が抑制される.これまでの研究で,ΔCFFが+0.1bar以上で地震活動が有意に活発化するといわれている.
図1 筑波大学八木勇治准教授による震源断層モデル(ver.1)と内陸活断層の分布(活断層研究会,1991).
東北地方内陸に分布する南北走向の逆断層にかかるΔCFFは,今回の巨大地震によって全域で顕著に減少する(図2),ただし,津軽半島周辺には最大0.5 bar程度の増加が見込まれる.北海道日高地域の逆断層帯でも若干の応力増加となる.北上山地では,ΔCFFがきわめて大きくなるが,同地域には主要な南北走向の逆断層は知られていない.一方,M8.9震源域の南側の房総半島東沖のプレート境界では顕著な応力増加となる.しかし,この地域の地震発生様式は明確ではない(1677年の津波地震の震源という見方もある). 一方で,新潟県中越地震や中越沖地震が発生した信越活褶曲帯では,逆断層の走向が北東ー南西となる.これらの逆断層にかかるΔCFFを図3に示す.概ねΔCFFが負もしくはごくわずかに正となる.
図2 東北地方および南北海道に分布する南北走向逆断層へのクーロン応力変化.なお,灰色に着色した地域は異なったタイプの断層が分布するので,計算値を隠している.
図3 信越地域に卓越する北東走向の逆断層にかかるクーロン応力変化.
跡津川断層など,北東ー南西走向の右横ずれ断層へのΔCFFは顕著な減少となる(図4).逆に,糸静線断層帯南部や阿寺断層帯などの北西−南東走向の左横ずれ断層ではわずかにΔCFFが正となる(図5),
図4 中部地方の北東走向の右横ずれ断層にかかるクーロン応力変化.
図5 中部地方の北西走向の左横ずれ断層にかかるクーロン応力変化.
なお,以上の計算結果は暫定的なものであり,今後八木先生のモデルの更新や,余震によるΔCFFを加えるなど,さらに詳細な解析によって,応力分布や値が変わる可能性がある.逐次更新していく予定である.